相棒3rd 第11話 「ありふれた殺人」


 土ワイの頃から全シリーズ通して、三本の指に入る完成度だったと思います。
 脚本も演出も役者も音楽も全てが素晴らしかった。

 最近は年と疲れのせいか、「幸せじゃない終わり方の話なんかわざわざ見たくねーよ」と、わけの分からないやさぐれ方をしている私ですが、こと『相棒』に関しては
「後味悪い」
のは褒め言葉なので、下手な勧善懲悪ものなんかやらなくていいから、このテイストを維持していってください。

 今回の脚本は櫻井さんで、2nd.season 15.16話を彷彿とさせる社会派路線な話でしたが、出来は今回の方が断然良かった。
 社会派なんだけど、それに本格ミステリのテイストが上手いこと合わさっていたのと、1時間に話をきっちりと収めたことで、抑制の利いたまったく無駄のない形に仕上がってました。これタダで見せてもらっていいのかな? と思ってしまったくらい。

 何を持って『本格』と見なすのかは人それぞれなんだろうと思いますが、(一度機会があったらマニアの人に「あなたにとって本格とはなんですか?」と聞いてみてください。うんざりるするほど語ってくれると思います)、私が「ああ、これは本格だな」とみなす要素を一言で言うと、
『世界が反転する感覚を味わえること』です。
 今回の話で言うと、大河内監察官が「ありふれた殺人事件として発表するんですか?」と言った瞬間、
「うわあっ。サブタイトルの意味が変わっちゃった!」
と、眩暈にも似た感覚に襲われて、
「これは社会派と本格ミステリが奇跡的に融合した話だ」と、一昔前の推理小説のキャッチコピーのような文言が頭の中に踊りました。
 最後に、あの娘さんの両親が、探していた犯人が被害者として映っているテレビを消す場面で、とどめを食らわされた気分です。
 傑作だ。
 

 自首してきたのは20年前の殺人事件の犯人。刑事でも民事でも時効は成立し、もう彼の罪を問うことは出来ない。
 こういうシチュエーションが示されたら、『どうやって犯人を説得して遺族に謝罪をさせるか』とか『罪が問えないならどうやって犯人に復讐するか』、という方向にストーリーは展開していくのだろうという予断を視聴者に与えることになる。これに加えて『被害者遺族の苦悩』を掘り下げて描いたら、立派な社会派ミステリが一本出来上がる。
 でもこの話はそっちの方向には安易に転がらない。
 今度は自首したばかりの元犯人が殺され、元犯人は被害者になり、職業意識よりも自らの良心を優先させて動いてしまった刑事のために、被害者遺族は容疑者へと立場を変える。
 
 天に代わって悪を撃ってくれる正義の味方なんか、ここにはいない。
 犯罪者を捕まえてくれるはずの警察も、法の前には無力だ。
 話の中で、現在の時効に関しての法制度の不備が静かに示されていく。静かに、とても静かに。
 誰にも答えることの出来ない問いを。聴くほうも傷ついてしまう残酷な痛みを。逃げずにただ聴いてくれた人がいたことに、あの老夫婦が少しでも救われていたらと、願う。

 


<2005.02.13>



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