『相棒』12話    12/29up

 最終回スペシャルは、2時間バージョンでした。集中して見過ぎて、頭が痛くなりました。正直、2時間でも足りないくらいに、盛り沢山の内容だったと思います(1時間ドラマ3話分くらいの密度だった)。
 11話が<激烈に良かった>ので、果たしてこの緊張感を保ったままラストまで駆け抜けてくれるのか。最後でがっかりさせられはしないか。そうした一抹の不安を抱えつつも、迎えた最終回。

 その結果は、私の期待を裏切らない、いや、期待以上のものでした。

 主役の二人も、その脇をがっちり固めるレギュラー陣も、ゲストキャラも、どの人たちの演技も素晴らしくて、だからこそストーリーに集中できて、ストーリーも、音楽も、演出も、全てが上手く噛み合っていたなあ、と思えました。

 『相棒』最終話のテーマは、<組織がらみの不正を、その組織内部にいる個人が告発し、その真相を世間の目につまびらかにした上で、自浄努力によって組織の不健全さを改善することは可能か?>というもの。

 ストーリーの最後に示された答えは、<否。少なくとも今のところは>でした。
 見ていた人の中には、『勧善懲悪』では終わらなかったから、すっきりしなかった人もいるでしょうね。でも、私はベタに勧善懲悪で終わるよりも、こっちの終わり方のほうが、リアルだなあと思ったし、好みでした。

『悪いことをした奴は、いつかその報いを受ける』

・・・とは限らないのがこの世の中。
 今回、ゲストキャラの<閣下>を見ていて、薬害エイズ事件の安部某が思い浮かびました。この人も絵に描いたような悪役っぷりを発揮していたけど、裁判では<無罪>なんですよね。今のところ。

 市井の人間から見ていて「どう考えてもクロだろコイツは」と思える人物であっても、『有罪』に持ち込めるだけの証拠が集まらなければ、罪は問えない。『無罪』と『無実』は違うのだと、納得のいかない現実をそのまま描いたところが、安直な結論に逃げていなくていいなあ、と私は好感を持ちました。

 もしも、北条が自分の罪を認めて逮捕されたとか、あるいは萩原が北条に天誅を下しちゃったとか、小野田が「すまん杉下、俺のやり方は間違っていた」って謝るとか(これはいちばんありえなそうだな)、そういう終わり方だったら、ある程度視聴者の溜飲は下がったかもしれない。でもそれだと物語の構造はまるっきり『時代劇』なんですよね。
 <天に代わりて悪を討つ>のは『時代劇』のお約束だから、『時代劇』ならそれでいいんですけど、『相棒』は今起きている現実を下敷きにした『現代劇』である以上、それをやっちゃうと、もの凄く嘘臭いものになってしまう。
 東映の相棒HP内『銀座放談』でプロデューサーさん達は、「もう昔のように刑事物は作れない」と語っていたけれど、最終話を見て「確かにねー。今のご時世だと、こういう終わりかたにならざるを得ないよねえ」と、なんだかえらく納得してしまいました。

 最終回に置いて、ストーリーのの鍵を握る人物達は、現実世界にいるであろう、様々な立場に立つ<個人>を象徴していました。

 「職」に与えられている権限を、自分自身の権力だと勘違いしている男=北条
 組織内の『個』の不正を正そうとしながらも、状況の変わらなさにやがて諦め、組織からの恩恵に与ることを選んだ男=萩原
 組織の中で得られる権限を最大限に活用し、不合理な組織のシステムを壊さないようにしつつも、その隙をつくようにして自らの意志を通そうとする男=小野田
 出世街道からドロップアウトし、上にこびへつらう必要のないある程度自由な立場で、自分の信じる道を進もうとする男=右京&亀山

 北条は典型的な悪玉なので論外としても、警察側の4人の考えと行動は、やり方は違えど、どれも納得できるものではあるのです。

 その中では、小野田のやり方、例えば彼が最後に示した外務省との『取引』などは、一番現実的で、合理的で、効果的なのでしょう。そこまで描かれることはなかったけれど、小野田は小野田のやり方で、自分なりの信念を通してしまうのかもしれない。それが右京や亀山のやり方と交点を結ぶことはないけれど。
 右京や亀山のやり方では、組織を変えることは出来ないのでしょう。末端の人間が何を言っても、それを受け入れられる程、警察組織のシステムは成熟していないから。 

 そう、今は多分無理。でもひょっとしたら、あきらめなければいつか何かが変わるかもしれない。
 そういう<救い>が、最後にきちんと、それもとても綺麗な形で出されていて、その事がとても嬉しかったから、だから私は悲しくないのです。
「このドラマを最後まで見られて良かったなあ」と思えたから。

 ストーリーにメッセージ性がしっかりあって、それでいてその主張がうっとおしくなくて、さりげない。
 それはもう、作り手達のセンスとしかいいようがなくて、力のあるドラマ陣達が作り上げた良質なドラマを、一視聴者として大変楽しませていただきました。
 
 あの終わり方は、続編への布石とみました。
 期待しておりますので、是非続編と、再放送と、DVD化をお願いします。

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